背伸びのままで。

良い話題があった時に更新します。

分かりやすい資料は、理解されにくいのでは?説

ソーシャルメディアで「すごいプレゼン」がよくシェアされています。

そういう資料を見るとすごい読みやすいんです。でも、次の朝にはほとんど忘れてしまっています。

たとえば、この人のスライドは、「すごい勉強になりそうだし、むっちゃ読みやすいなー」と感じながら読むけれど、次の日には「その読みやすい資料の人の資料」以外の印象が残らないのです。

Takaaki Umada, Evangelist | SlideShare

 

一方で、分かりにくくて、理解するのに苦労したものは結構記憶に残っています。すごい俗な例なのですが、英語の曜日のTuesday/ThursdayとかSaturday/SundayよりもWednesdayの方が先に正確に覚えませんでしたか?

Wednesdayのスペルは複雑ですが、違和感があり過ぎて先に正確に覚えてしまったのです。

※ちなみに、この記事書くときにThursdayは心配でググりました

※※そしてスペルが間違っていることに気づきました

 

しかし、「この感覚は自分だけのものではないか」という疑念もあったので、いくつか調査や研究を漁ってみたところ、意外と自分の読みは正しいものではないかという考えに至りました。

 

プリンストン大学の研究によると、「理解しやすいように工夫すれば、学びにつながりやすい」という気がするけれど、実際は理解し難いものの方が情報の処理は深くなり、効果的な学びを生み出すそうです。

Many education researchers and practitioners believe that reducing extraneous cognitive load is always beneficial for the learner. In other words, if a student has a relatively easy time learning a new lesson or concept, both the student and instructor are likely to label the session as successful.

(中略)

There is strong theoretical justification to believe that disfluency could lead to improved retention and classroom performance. Disfluency has been shown to lead people to process information more deeply, more abstractly, more carefully, and yield better comprehension, all of which are critical to effective learning.

The Educational Value of Ugly Fonts - Ideas Market - WSJ

 

また、これは調査に基づいているものではありませんが、有名な(はず)デザインのホームページに、長文だと疲れにくい書体としてゴシック体よりも明朝体が薦められています。

スライドやポスターならばともかく、レジュメやレポート、企画書、報告書などの資料では、ときに、数行、数十行に及ぶ長い文章を書くことがあります。このような長い文章には、「細い書体」が向いています。太いフォントで長い文章を書くと紙面が黒々してしまうので、可読性が下がります。一般に、明朝体はゴシック体に比べて細い書体なので、長い文章には明朝体が適切です。英語であれば、サンセリフ書体よりも、セリフ体の方が長文に向いています(可読性に優れている)。新聞や論文のように、長い文章には、「明朝体」や「セリフ書体」を使った方が、読み手にストレスを与えません。

書体の選び方|伝わるデザイン

 

 一方で、ある研究では、ゴシック体のほうが明朝体よりも理解度は高かったようです。

文字フォントとフォントサイズの影響を調べるために,表示メディアごとに文字フォントとフォントサイズを要因とする二元配置分散分析を行った.その結果,すべての表示メディアにおいて,フォントの要因が優位であった(数値略).いずれも,ゴシック体が明朝体に比べて理解度が高かった.

CiNii 論文 -  文章の表示メディアと表示形式が文章理解に与える影響

 ※ぼくはこの論文が明朝体で書かれているというところが大好きです

 

違う切り口の研究も紹介してみましょう。

読むスピードに関しては、電子書籍の方が早いという研究があります。

アーネスト・ヘミングウェイの短編小説を読むのにかかった時間は、iPad電子書籍コンテンツを読む方が印刷媒体に比べて6.2%長く、Kindle 2は10.7%長かった。
(中略)
また読書後に各形態の満足度を7段階で訪ねたところ、iPad(満足度5.8)が最も高く、Kindle(同5.7)と書籍(同5.6)が僅差で続いた。最も敬遠されたのはパソコンのモニター(同3.6)だった。

ニュース - iPadやKindleでの読書スピード、印刷本より時間がかかる:ITpro

 

しかし、理解度に関しては、紙のほうが理解を促すそうです。

その結果、DMのメディアとしての特性や他のメディアと比べた優位性など、これまで実証されなかったことが脳の生体反応レベルで判明しました。なかでも、同じ情報であっても紙媒体(反射光)とディスプレー(透過光)では脳は全く違う反応を示し、特に脳内の情報を理解しようとする箇所(前頭前皮質)の反応は紙媒体の方が強く、ディスプレーよりも紙媒体の方が情報を理解させるのに優れていることや、DMは連続的に同じテーマで送った方が深く理解してもらえることなどが確認されました。

「紙媒体の方がディスプレーより理解できる」 ダイレクトメールに関する脳科学実験で確認|ニュースリリース:2013年|トッパン・フォームズ株式会社

  

他にも何個か研究結果を調べたのですが、日本語の場合、(特に長文で)読みやすいのは明朝体、理解度が高いのはゴシック体が多いような印象でした。

 

「読みやすい資料」「読みやすい文章」を求められることは多いですが、理解させることが目的の場合はあえて読みにくい資料/文章を作るということも有効かもしれません。良く言えば、あえて「引っ掛かり」を作ると、理解が深まるかもしれないということです。

 

ただし、理解できていても、読者の満足度が低くなる可能性があるので、もし仕事などで活用するときは理解度を指標にしておくなどの工夫をしておくように、意識した方が良いかと思います。

 

ということで、分かりにくい文章でしたが、きっとその分理解はできたと思うので、苦情は受け付けません。分からなければ読みなおしてね(はーと)