背伸びのままで。

良い話題があった時に更新します。

結婚式場の業者との交渉について考えてみた(前編)

以下のエントリーが面白かったので、過去のブログで触れた交渉の考え方を使って少し考察しようと思います。

 

結婚式の業者ってヤクザだと思う。 - はてな匿名ダイアリー

http://anond.hatelabo.jp/touch/20140508022218

結婚式の準備をしてるんだけれども、嫁とケンカしてしまった。

原因は結婚式の式次のオプションの価格について。

業者は女性の一世一度の晴れ舞台という弱みにつけこんでやりたい放題やっていると思う。

 

たとえば、お色直しで一回ドレスを着替えるのに20万円だそうだ

「ちょっと高いな」と言ったら嫁に「愛してないの?」みたいなことを言われてしまった。

結婚業者は「一生に一回の晴れ舞台ですから、奮発したプレゼントだと思って」とおっしゃる。

もちろん嫁に20万相当のプレゼントをするのはやぶかさでないぐらい愛してはいるけど、20万円あったら普通に二人で海外旅行に行けてしまうのだ。

確かに、結婚式の業者は、「もうウチで式を挙げるしかない」と確信した時点で強気に交渉してきます。しかし、交渉の様子を紐解いていくと、必ずしも業者が優位に立つわけでわないことも分かりました。

 

ここでは、過去の記事にしたがって、やりとりを以下の手続きで考察してみたいと思います。

 
  1.  自分の利害を分析し、理解する
  2.  相手の利害を分析し、理解する
  3.  交渉戦略を立てる
  4. 「社会の目」から検討する

 

全て考察していくと文章量が多くなってしまったため、前編では1と2の利害について、後編では3と4の実践方法について書いていきたいと思います。

 

1. 自分の利害を分析し、理解する

まず、自分の利害を分析します。仮にこの記事では、自分=匿名はてなダイアリーの筆者(男側)としましょう。
 
自分の利害を仮に以下のように整理します。
 
  • A-1)もっともやりたいこと:収支±0で結婚式を実施
  • A-2)交渉が決裂した場合の代替案(BATNA):なし
  • A-3)これだけはやりたいこと:借金せずに結婚式を実施

f:id:mittz:20140510095431p:plain

自分の交渉力はそれほど強いとはいえません。
 
交渉ではA-1とA-2の間で交渉は妥結することになります。より利益を獲得する方法としては「結婚資金を下げる」、「出資を受ける」、「ご祝儀を増やす」などが考えられます。
 
一般的に、代替案(A-2)を用意しておくと自分の交渉力は上がります。代替案というのは、たとえば、「他の場所で式をする」、「他の人と結婚する」などです。
つまり、「そんな条件であれば、他の式場で行う」と言える状態かどうかで、交渉力が大きく変わります。逆に言うと、代替案がなければ、相手はそこを突いて交渉を優位に進めることができます。
 

2. 相手の利害を分析し、理解する

「相手」といっても、結婚式のやり取りをする相手は複数考えられます。業者も新婦も相手と言えるでしょう。場合によっては友人や家族、参加者なども重要な交渉相手になるかもしれません。
 
記事では業者と新婦が登場しているので、その2名を相手として分析してみましょう。
 

新婦の利害 

新婦の利害は、記事を読む限りお金のことはそれほど重要視していないようなので、以下のように置きましょう。もっと細かく「衣裳にはこだわりたい」「料理はフレンチ」などの要望はあるかもしれませんが、ここでは単純な仮定を使います。
 
  • B-1)もっともやりたいこと:誰もが羨む結婚式を実施
  • B-2)交渉が決裂した場合の代替案(BATNA):なし
  • B-3)これだけはやりたいこと:平凡な結婚式を行う

f:id:mittz:20140510102925p:plain

新婦の交渉力は強くありません。
 
そして「基準が明確なものではない」というのも特徴的です。よって、新婦にアプローチする方法は多様で、オプションの有無だけでなく「一緒に作った」「時間をかけた」などの要素も、「素敵な結婚式」に繋がる要素になりうると思います。
 
業者としては自分にアプローチするよりも、妻へアプローチするのが賢い手段になります。たとえば、「みんなこのオプションを使っていますね」とかいう言葉でB-2、B-3の「平凡レベル」を底上げすることでオプションの数や金額を増やしていくことができます。
 

業者の利害

一方、業者の利害は、自分の利害と同様、利益額で見ることができます。
 
  • C-1)もっともやりたいこと:担当のノルマを達成する利益を出す
  • C-2)交渉が決裂した場合の代替案(BATNA):なし
  • C-3)これだけはやりたいこと:赤字を出さずに実施

f:id:mittz:20140510103444p:plain

実は業者もそれほど優位とはいえません
契約条件にもよりますが、日程を押さえられると、業者は取引に不満だからといって新郎新婦を変えることはできません。
 
また、彼らは新婦にアプローチする他にも、メニューは自分で作ることができるので、「利益率の高いオプションを用意する」「持ち込みを禁止にする」「担当を細かく分けてノルマを設定する」などの手段で利益を獲得しやすくすることができます。
 
彼らは、新郎の利害に直接アプローチしてしまうと泥仕合になってしまうため、妻の利害を高める(結婚式を素敵にする)ことで業者の利害を高める(利益を上げる)というアプローチを取るのでしょう。
 

利害の整理

さて、ここで、3者の利害を整理すると、
 
  • 自分:金額の低さ
  • 新婦:式の質の高さ
  • 業者:金額の高さ
に関心があると言えます。
 
業者は、自分(新郎)に対して「高額の式にしてくれ」と言っても無駄なので、新婦に対して「質の高い式にしましょう」ということで間接的に高額なオプションを買わせようとします。そのほうが簡単です。
 
また、他にも、新婦と業者には大きな違いがあります。それは、新婦とは中長期的な関係であるのに対して、業者とは1回きりの関係であるということです。自分が新婦を騙せば今後の自分の利害に影響がありますが、業者は騙しても1回きりで関係が終わります。そこに自分と業者の(新婦への)交渉力の違いがあります。
業者にとっては、1度きりの関係になる他人をおだてるだけで自分のノルマが達成できるのであれば、罪悪感はそれほどありません。自分は、障害の伴侶になりうる人に恨まれる可能性があるのです。
 
しかし、逆に言うと、自分も業者に遠慮する必要は全く無いわけです。実際、9割以上の既婚者はウェディングプランナーと連絡し続けている人はいないでしょう。式が終われば、彼らから売り込み以外の連絡が来ることもまずありません。 
 

契約前の利害

今回は記事に合わせて利害を整理しましたが、本当は契約前から交渉が始まっています。交渉前は、自分に代替案があるので有利であることが分かります。
 
自分の利害
  • A'-1)もっともやりたいこと:収支±0で結婚式を実施
  • A'-2)交渉が決裂した場合の代替案(BATNA):他の式場を選ぶ
  • A'-3)これだけはやりたいこと:借金せずに結婚式を実施
新婦の利害
  • B'-1)もっともやりたいこと:誰もが羨む結婚式を実施する
  • B'-2)交渉が決裂した場合の代替案(BATNA):他の式場を選ぶ
  • B'-3)これだけはやりたいこと:結婚式を行う
業者の利害
  • C'-1)もっともやりたいこと:利益を出せる条件での契約
  • C'-2)交渉が決裂した場合の代替案(BATNA):なし
  • C'-3)これだけはやりたいこと:赤字を出さない条件で契約

 

先ほどの利害との大きな違いは、以下の2点です。

  • 自分と新婦には代替案ができていること
  • 業者の目標が低いこと

「自分は他に移れるし、業者はとにかくまず契約を結びたがっている」という自分に有利な状況になっています。つまり、契約前から交渉を進めるのは、非常に効果的です。

 

とはいえ、先の記事のような契約後でも、交渉を優位に進めることは可能だと思います。その辺については、後編で書いていきたいと思います。

 

参考文献

交渉学と合意形成 (NEGOTIATION and CONSENSUS BUILDING) | mmatsuura.com

http://www.mmatsuura.com/negotiation/